10年以上読んでいない『段取り力』が、今でも仕事の基本になっている

先日、本棚を整理していたら、懐かしい本が出てきた。

齋藤孝氏の『段取り力』である。

最後に読んだのはいつだったか。少なくとも10年以上は開いていないと思う。

それでも今、

「これまで読んだ本の中で、仕事に役立った本は?」

と聞かれたら、たぶんこの本は出てくる。

細かい内容はかなり忘れている。それでも一番重要な考え方だけは、今でも自分の仕事の中に残っている。

仕事は、始める前の段取りでかなり決まる。

その後、私はプロジェクトマネジメントを正式に勉強した。WBS、リスク管理、ステークホルダー管理など、さまざまな理論や手法も覚えた。

しかし振り返ってみると、その基本的なコンセプトは、昔この本で読んだこととかなり重なっている。

仕事ができる人は、まだ何もしていないように見える

システム開発でも、仕事が速い人がいきなりコードを書き始めるとは限らない。

最初に考える。

何を変更するのか。どこに影響するのか。誰の確認が必要なのか。失敗したらどう戻すのか。

傍から見ると、まだ何もしていない。

しかし、この段階でかなり仕事は終わっている。

逆に怖いのは、

「分かりました。やってみます」

と言って、すぐ作業を始める人である。

行動が速いので仕事も速そうに見える。

そして30分後、

「すみません、ちょっと問題がありまして」

となる。

仕事の速さと、作業開始の速さは別物なのである。

「先の先」をどこまで読めるか

『段取り力』で特に印象に残っているのが、「先の先」を読むという考え方だった。

本では鉄道のダイヤや、建築家・安藤忠雄氏のプレゼンなど、いろいろな例が紹介されていた。

予定通り進むことだけを考えるのではない。

問題が起きたらどうする。相手からこの質問が来たらどう答える。さらに要求が来たらどうする。

つまり段取りとは、

予定を立てることではなく、未来をシミュレーションすること

なのだと思う。

後にプロジェクトマネジメントを勉強すると、これらにはきちんと名前が付いていた。

タスクを分解する。リスクを洗い出す。関係者を特定する。問題が起きた場合の対応策を準備する。

もちろん、それぞれ体系的な方法論がある。

しかし根っこはかなり単純である。

「始める前に、できるだけ先まで考えておけ」

ということだ。

経験とは「先が見えること」なのかもしれない

若い頃と今で、自分の仕事の仕方が何か変わったかと考えると、技術力以上にここが大きい気がする。

「このまま行くと、ここで揉める」

「この仕様はあとで絶対に聞かれる」

「この作業は戻し方を決めておいたほうがいい」

昔より、こういうものが早く見えるようになった。

特殊能力ではない。

過去に何度も痛い目に遭ったからである。

失敗すると、次からそこを見る。

さらに失敗すると、その一つ前を見る。

そうやって少しずつ「先の先」が見えるようになる。

10年以上開いていなかった『段取り力』を本棚から引っ張り出して、そんなことを思い出した。

内容の細部は忘れている。

それでも考え方だけは、今でも仕事の中に残っている。

そう考えると、本当に役に立った本というのは、何が書いてあったか全部覚えている本ではないのかもしれない。

本の内容を忘れたあとも、自分の仕事のやり方だけが変わったまま残っている。

たぶん、それが一番元を取った本なのだと思う。