「3日の作業を4時間で」のAI教材広告に覚えた違和感——問題はAIではなく、その会社では?

最近、AI講座やオンライン教育サービスの広告をよく見かける。

先日見たのは、ベテランらしきコンサルタントが転職するところから始まる、ちょっとしたドラマ仕立ての広告だった。

会議で資料作成の工数を聞かれ、彼は、

「3日くらいかかります」

と答える。

するとAIを使いこなす若手社員が、

「4時間くらいです」

と答える。

そこで上司から、

「あなたのスキルは本物だ。ただ、使っているツールが古い。2週間あげるからキャッチアップしてください」

と言われる。

なるほど。

AIを使えないベテランは若手に置いていかれる。だから今すぐAIを勉強しよう。

言いたいことはよく分かる。

ただ、長くITの現場で仕事をしてきた人間としては、AIのすごさより先に別のことが気になった。

この会社、採用どうなってるんだ。

「3日」と「4時間」の差を面接で見抜けなかったのか

1日8時間なら、24時間と4時間。

6倍違う。

これだけ生産性を左右するスキルなら、その会社にとってAI活用はかなり重要な能力のはずだ。

しかも新卒ではなく、即戦力を期待する中途採用である。

それなのに、

「採用してみたら、うちで当たり前に使っているAIツールを使えませんでした」

となる。

いや、それを確認するのが採用面接ではないのか。

求人票に「生成AIを利用した資料作成経験」と書いてもいい。面接で「普段どんなAIツールを使っていますか?」と聞くだけでもいい。

ところが、この会社はそこを華麗に突破させ、入社後の会議で初めて、

「えっ、この人、AI使えないの?」

となる。

AI以前に、採用プロセスをDXしたほうがいい。

ポテンシャル採用なら、今度は教育がおかしい

では、AIスキルは採用条件ではなく、入社後に覚えてもらう前提だったとしよう。

それなら話は分かる。

しかし今度は、

なぜオンボーディングで教えていないのか。

という疑問が出てくる。

「弊社ではこのAIツールを使います」

「このテンプレートを使ってください」

「最初にこの研修を受けてください」

普通はこちらだろう。

ところが広告の会社では、とりあえず現場に投入する。

本人が「3日」と見積もる。

若手が「4時間」と答える。

そこで初めて「あなた、ツールが古いですね」となる。

そして、

「2週間あげます。キャッチアップしてください」

随分と自由な会社である。

会社で必要な業務スキルなのに、研修もなく、とりあえず2週間でなんとかしてこい。

広告の商品であるAI講座へきれいにつながるのだが、転職者からすれば、

「なんで会社で必要なスキルを、自分で外部講座を探して勉強しているんだ?」

となる。

ベテランの問題より会社の問題が大きい

働く側にも勉強は必要だ。

特にAIのように変化が速い分野では、「自分はベテランだから今までの方法でいい」は通用しない。

だから広告が伝えたい、

「経験だけに頼らず、新しいAIツールも学ぼう」

というメッセージ自体には異論はない。

ただ、このストーリーでは会社側の問題が大きすぎる。

採用時に必要なスキルを確認しない。

入社時にも教えない。

そのまま現場に投入する。

そこで生産性が6倍違うことが判明する。

そして本人に2週間でなんとかしろと言う。

ベテラン社員のリスキリング物語というより、人事とマネジメントの失敗事例に見えてしまう。

顧客から見ても結構怖い

さらに、この会社がコンサル会社という設定なのも面白い。

顧客側から考えてみる。

同じ会社に仕事を頼んでも、

Aさんなら4時間。

Bさんなら3日。

しかも会社自身が、その能力差を把握していなかった。

コンサル会社なら、その工数は見積もりや料金にも影響する。

「この資料作成には3日必要です」

と言われて発注したら、隣の社員なら4時間でできた。

私が顧客なら、AI講座よりこちらのほうが気になる。

御社の見積もり基準、どうなっていますか。

AIの恐怖を描こうとして、会社の恐怖を描いてしまった

広告なので、多少大げさなストーリーになるのは分かる。

「AIを使うと少し効率が良くなります」では弱い。

だから、

3日 → 4時間。

これくらい派手な差をつけ、ベテランに「このままではまずい」と思わせる。

ところが差を大きくしすぎた結果、別の問題まで巨大になってしまった。

3日と4時間も違う重要スキルなら、採用時に確認しろ。

入社後に覚えさせるなら、会社が教育しろ。

どちらもやらず、現場で発覚してから「2週間でキャッチアップしろ」は、さすがに社員が気の毒である。

広告を見て、AIを勉強する重要性はよく分かった。

ただ、私が一番学んだのはそこではない。

転職するときは、その会社のオンボーディング体制を確認したほうがいいということだ。