魂は分割できるらしい――屁理屈が謎理論に進化する瞬間
昔、テレビで心霊研究家と科学者が輪廻転生について議論しているのを見たことがある。
心霊研究家は「前世の記憶を持つ子供がいる。これは輪廻転生の証拠だ」と主張する。一方、科学者は記憶違いや思い込みではないかと反論する。
このあたりまでは、よくある議論だった。
ところが、科学者が面白い質問をした。
「世界の人口はどんどん増えていますよね。輪廻転生で魂が使い回されているなら、増えた分の魂はどこから来るんですか?」
確かに、魂の総数が一定なら人口増加をどう説明するのか。
心霊研究家は少し考えて、こう答えた。
「魂は分割できるんです」
思わず笑ってしまった。
魂というのは、そんな便利な仕組みだったのか。
しかも分割できるなら、元の魂と新しい魂の関係はどうなるのだろう。半分ずつ前世の記憶を引き継ぐのか。それともコピーされるのか。
疑問はいくらでも湧いてくる。
しかし、こうした疑問にも新しい設定を追加すれば、いくらでも答えられる。
問題はそこにある。
前提を守るために世界が複雑になる
似たような話は、天動説にも見られる。
地球を中心に宇宙が回っていると考えると、太陽や惑星の動きを説明するために複雑な軌道で動いている前提が必要になる。
もちろん、地球を原点とする座標系で天体の運動を記述すること自体は可能だ。
しかし、太陽系の運動を物理法則に従って説明するなら、一番質量が大きい太陽を中心に考えた方がはるかに自然である。
ところが「地球は動かない」という前提を絶対に守ろうとすると、周囲の天体に複雑な動きをさせることになる。
理論が現実を説明するのではなく、前提を守るために理論を継ぎ足していく。
この構造が面白い。
地球が平らでも問題ないらしい
現代にも、地球は平らだと信じるフラットアーサーと呼ばれる人々がいる。
地球が平らなら、その端はどうなっているのか。
彼らの一部によれば、南極には巨大な氷の壁があり、人間が外へ出られないようになっているらしい。
では、なぜ誰もその壁を確認できないのか。
世界各国の政府が協力して隠しているからだという。
実に見事な理論である。
地球が丸く見える写真が出てきても、政府の捏造だと言えばいい。科学者が反論しても、陰謀に加担していると言えばいい。
反証が出てくるたびに陰謀の規模を拡大すれば、理論は永遠に負けない。
ただし、その代償として、世界中の政府、科学者、宇宙飛行士が何世代にもわたって秘密を守り続けるという、とんでもない設定が必要になる。
魂の分割どころではない。
人間は間違いを認めるより設定を追加したがる
こうした話を笑って見ているが、実は日常でも似たようなことは起きている。
仕事の会議でも、自分の主張に矛盾を指摘されると、突然それまで聞いたこともない条件が追加される人がいる。
「いや、それは特殊なケースだから」
「実は別の事情があって」
「最初からそういう意味で言っていた」
最初の説明にはなかった設定が、次々と登場する。
特に政治家はこうゆう言い方が好きらしい。
もちろん、新しい事実が分かれば説明を修正するのは当然だ。
問題は、新しい事実を説明するためではなく、自分が間違っていなかったことにするために理屈を追加することである。
そうなると、議論はもはや真実を探す作業ではなく、最初の主張を守るための防衛戦になる。
そして防衛線を一つ突破するたびに、さらに奇妙な設定が登場する。
昔のテレビで見た心霊研究家を、私は長いこと笑い話として覚えていた。
しかし、考えてみれば、あの人は特別なことをしていたわけではない。
人間は誰でも、自分の間違いを認めるより、都合のいい説明を考えたくなるものだ。
ただ、普通の人は言い訳を追加するだけで済む。心霊研究家は人口問題を解決するために、魂を二つに割ってしまったのである。