円安だから日本に来る?――「安さ」だけで人が殺到するほど商売は甘くない
先日、BBCのニュースをもとに「なぜ今、日本にイギリス人観光客が増えているのか」を解説するイギリス人の動画を見た。
そこで一番大きな理由として挙げられていたのが、実にシンプルなものだった。
円安である。
これは確かにその通りだと思う。
どれだけ日本のアニメが好きでも、京都の寺を見たくても、寿司を食べたくても、旅行代金が高すぎれば来られない。「日本に行きたい」という気持ちと、「実際に飛行機に乗る」の間にある壁を一気に低くしたのが円安なのだろう。
ただ、ここで少し引っかかった。
通貨が安くなれば、本当にどこの国にも観光客が殺到するのだろうか。
そんなわけはない。
安くなれば売れる、というほど簡単ではない
世界には通貨価値が大きく下落した国などいくらでもある。
しかし、そのたびに世界中から観光客が「安いぞ!」と押し寄せるわけではない。通貨が暴落し、輸入品が買えなくなり、食料や燃料の価格が跳ね上がって国民生活が苦しくなるだけの国もある。
円安の日本に観光客が殺到するのは、「円が安いから」だけでは説明できない。
もっと正確に言えば、
もともと欲しかったものが安くなったからである。
高くて手が出なかった商品が30%オフになれば人は買いに行く。しかし、誰も欲しくない商品に半額シールを貼ったところで、大行列にはならない。
観光も同じだ。
日本には京都や奈良の寺社、東京、食文化、アニメやゲーム、温泉、雪、治安、交通網など、もともと「行ってみたい」と思わせるものがあった。
そこへ円安が来た。
魅力が生まれたのではない。もともとあった魅力に、値下げシールが貼られたのである。
「安い日本」は、確かに複雑な気分になる
日本人からすれば、これはあまり気持ちのいい話ではない。
海外旅行へ行けば何もかも高い。輸入品も高くなる。海外の人から「日本は安い!」と喜ばれる横で、日本人はスーパーの商品価格を見てため息をついている。
だから、
「結局、日本が貧しくなったから人気が出ただけじゃないか」
と言いたくなる気持ちも分かる。
しかし、安くなっただけで世界中から客が来るなら、観光立国など簡単である。
通貨を暴落させればいい。
当然、そんなことをすれば国が壊れる。
通貨安になったとき、何を売れるのか
むしろ重要なのは、通貨が安くなったときに外貨を稼げるものを持っているかどうかだと思う。
日本には観光がある。そして製造業を中心とする輸出産業もある。
円安になれば原材料やエネルギーの輸入価格は上がる。一方、日本の商品やサービスは外国人から見れば安くなる。
つまり為替が悪い方向へ動いても、その変化を利用して外から金を稼ぐ経路が残っている。
同じ通貨安でも、食料や燃料の価格が上がって生活が立ち行かなくなるだけの国とは、かなり事情が違う。
「待ってました」と買われるものがある
「安くなったから外国人に買われている」という言葉だけを聞くと、日本の価値そのものまで安くなったような気分になる。
だが、値段が下がった瞬間に「待ってました」と客が押し寄せるのは、値段が高かった頃から欲しがられていたということでもある。
円安は日本の魅力を作ったわけではない。
すでに存在していた需要の栓を開けただけである。
通貨安だけが理由なら、日本より安い国はいくらでもある。
それでも飛行機に乗って日本まで来る。
安くしただけで売れるほど、商売は甘くないのである。