「AIだけの部署」を作ったNECを笑えるのか——本当のボトルネックはそこではない
NECが「AIだけの部署を作った」というニュースが出て、ネットでは結構な話題になっていた。
そしてSNSを眺めていると、
「AIだけといいつつ微妙に人間絡んでるし」
「だから日本の大企業はダメなんだ」
「周回遅れにもほどがある」
「AIを活用するのではなく、AIを使っているアピールをしているだけ」
といった冷笑的な意見がかなり目につく。
言いたくなる気持ちは分かる。
今さら「AI専門部署を作りました」と大々的に言われても、AIを日常的に使っている側からすると、「それ今アピールする?」と感じるからだ。
ただ、残念な気持ちになるだけでなく、別の気づきも与えてくれた。
AIだけで部署を動かせるかという実験そのものより、AIを既存の組織に入れた結果、人間の仕事がどこに残るのかという話だ。
実際にAIを使って開発していると、それがかなり露骨に見えるようになってきた。
AIが速くなると、人間が遅く見える
ソフトウェア開発では、AIによって実装速度がかなり上がった。
仕様が決まっていれば、コードの実装やテスト、既存コードの調査、ドキュメント作成まで相当な速度で進む。
ところが開発全体が同じ割合で速くなるわけではない。
「この場合はAとBのどちらにするのか」「この例外をどう扱うのか」といった判断が必要になると、そこで止まる。
以前は人間がプログラマーの実装を待っていたのに、今ではAIが人間の回答を待っている。
開発部分だけ10車線に拡張したのに、その先の料金所が一つしかないような状態である。
その料金所に座っているのが人間だ。
最後まで残るのは要件定義
特に厄介なのが要件定義である。
会議を文字起こしして議事録を作り、そこから要件定義書のドラフトを作る程度なら、AIはすでにかなり使える。
難しいのは、その前だ。
現場担当者に「何が必要ですか」と聞いて、きれいな要件一覧が返ってくることなど滅多にない。
「このExcelが使いにくい」「昔からこうしている」「営業はこうしたいが経理は困る」「本当は禁止だけど現場ではこうしている」といった断片的な話から、本当の問題を掘り起こさなければならない。
しかも本人自身が問題をうまく言語化できていないこともある。
AIは渡された情報を整理するのは得意だが、そもそも渡されていない情報を現場から掘り起こす仕事は別である。
要件定義は技術より人間関係が難しい
さらに面倒なのが利害調整だ。
営業は入力項目を減らしたいが、経理は増やしたい。現場は作業を簡単にしたいが、管理部門は証跡を残したい。セキュリティ担当は制限を増やしたいが、経営側は安く早く作りたい。
AIに各部署の意見を渡せば、選択肢を整理してメリットとデメリットを比較することはできる。
しかし最後には誰かが、
「今回はこれでいく」
と決めなければならない。
その結果、誰かの仕事が増えるかもしれないし、失敗すれば責任問題になる。
AIが100個の案を作れても、どれを採用して誰を説得し、その結果に責任を持つかは別の仕事である。
「AIだけの部署」より普通の部署のほうが難しい
だから「AIだけで動く部署」という話を聞いても、だから何?が私の本音である。
むしろ難しいのは、普通の部署にAIを入れることだ。
既存業務の調査や資料作成、実装、議事録作成などをAIへ移していけば、人間はより判断や調整に集中できる。
そして皮肉なことに、AIが仕事を引き受けるほど、人間には関係者から話を聞き、利害を調整し、最後に決めて責任を持つ仕事が濃縮されて残る。
これはなかなか消えそうにない。
しかし考えてみれば、AIだけの部署には少なくとも一つ、とてつもなく大きな利点がある。
人間がいないので、要件を決める会議が長引かないことだ。