世界幸福度ランキングは本当にあてになるのか?――日本52位・フィリピン56位の違和感から考える

先日、フィリピン在住のYouTuberが「世界幸福度ランキング」について話している動画を見た。

日本は52位、フィリピンは56位。ほとんど変わらない。

そのYouTuberが言うには、実際にフィリピンで生活している感覚からすると、この順位にはかなり違和感があるという。

医療、食事の衛生面、インフラ、治安など、日常生活の安心や便利さを考えれば、日本のほうが明らかに恵まれている。それなのに幸福度ではほぼ同じ順位になるのはおかしいそうだ。

私はフィリピンに住んだこともないので、フィリピンの生活実態について評価するつもりはない。

ただ、この動画を見ていて気になった。

そもそも「世界幸福度ランキング」とは、いったい何を測っているのだろう。

幸福度ランキングは「住みやすさランキング」ではない

世界幸福報告(World Happiness Report)のランキングで中心となるのは、本人に自分の人生を評価してもらうアンケートだ。

有名なのが「キャントリルの梯子」と呼ばれる質問で、自分にとって最高の人生を10、最低の人生を0として、「現在の自分はどのあたりにいるか」を答えてもらう。

つまり、病院の数や犯罪率、平均所得などを集計して「この国は82点」と計算しているわけではない。

本人に「あなたの人生、何点ですか?」と聞いているのである。

安全で豊かな国でも本人が「5点」と答えれば5点。生活条件が厳しくても「8点」と答えれば8点になる。

それを国別に並べて「世界幸福度ランキング」と呼ぶと、生活環境まで含めて客観的に採点した数字のように見えてしまう。

国が違えば「7点」の意味も違う

さらに文化差もある。

日本人は自分を高く評価することに比較的慎重だ。「最高ですか?」と聞かれて、「最高です!10点!」より「まあ……7点くらいですかね」と答える人は珍しくない。

先ほどのYouTuberは、フィリピンでは家族や友人とのつながりを重視し、「今を楽しく生きる」という感覚が強いという趣旨の説明をしていた。

それがフィリピン人全体にどこまで当てはまるのか、私は知らない。ただ、文化によって回答傾向が違うのであれば、日本人の「7点」とフィリピン人の「7点」をそのまま比較できるのか、という疑問は残る。

フィリピンを見るなら「海外で働く人」の存在は無視できない

そこで幸福度ランキングとは別の数字を見てみる。

人が実際にどこで働こうとしているかだ。

フィリピンでは、OFW(Overseas Filipino Workers)という言葉が普通に使われるほど、海外で働いて家族へ送金する生活モデルが社会に定着している。

看護師、介護士、船員、建設労働者、家事労働者、エンジニアなど、さまざまな職種の人が国外で働く。国内より高い収入を得るために、家族と離れて外国で働くのである。

海外からの送金は巨大な規模になっており、フィリピン経済の重要な柱でもある。

これはかなり重い事実だと思う。

「幸せです」と「ここでは十分に稼げません」は両立する

ここで幸福度ランキングの話が面白くなる。

アンケートで「自分は幸せだ」と答えながら、同時に **「家族を養うには外国で働いたほうがいい」**という判断も成立する。

この二つは矛盾しない。

精神的には幸福でも、経済的には国外へ出たほうがいい。家族を大切にしているからこそ、その家族と離れて海外へ働きに行く。

なかなか皮肉な構造である。

ここまで来ると「フィリピンは幸福度56位、日本は52位だから、両国の暮らしはだいたい同じ」という読み方がいかに乱暴かが分かる。

アンケートではなく、人間の行動を見る

日本にも海外で働く人はいる。しかし、「家族の生活を支えるために数年間外国へ出稼ぎに行く」ことが標準的な人生設計になっているわけではない。

自国より海外で働いたほうが圧倒的に稼げるため、家族を残して国外へ出る人が大量にいるのであれば、それは国内の雇用や賃金について何かを語っている。

アンケートではなく、人間の行動が語っているのである。

外国へ行けば言葉も文化も違う。家族とも離れる。ビザを取り、仕事を探し、住む場所を変えなければならない。それでも外国へ働きに行く。

これは「あなたの人生は10点満点で何点ですか?」という質問への回答より、はるかに重い選択である。

幸福でも腹は減る

世界幸福度ランキングにも意味はある。「その国の人が自分の人生をどの程度高く評価しているか」を知るデータとして見れば興味深い。

ただ、それを「その国がどれだけ住みやすいか」と読み替えると、おかしなことになる。

フィリピンでは多くの人が海外で働き、その送金が経済の重要な部分を支えている。一方で、幸福度ランキングでは日本と大きな差がない。

この二つは矛盾していない。むしろ、幸福度ランキングが何を測っていて、何を測っていないのかをよく表している。

「私は幸せです」という回答と、「でも、家族を養うために外国へ働きに行きます」という行動は同時に成立する。

幸福でも腹は減る。

家族との時間が幸せでも、家賃は払わなければならない。子どもの学費も必要になる。だから人は、より稼げる場所へ動く。

そして腹が減れば、人は幸福度ランキングなど見ずに、仕事のある国へ向かう。

人間の足は、アンケートより正直なのかもしれない。