目先の進捗を追うほど仕事が遅くなる――AI時代こそ「斧を研ぐ」時間が必要だ
IT開発の現場では、プロジェクトが始まると、とにかく目の前のタスクを片付けることが優先される。
チケットを消化する。画面を作る。APIを実装する。進捗率を少しでも上げる。
それ自体は間違っていないのだが、最近、AIを使って開発していて改めて感じることがある。
目先の作業を進めるより、作業を速くするための環境を整えた方が、結果的にはるかに大きな成果を生むのではないか。
コードを書く前に、AIを賢くする
私の場合、最近はClaude Codeの開発環境を整えることに、かなり時間を使っている。
プロジェクト固有のルールを整理し、AIに適切なコンテキストを与える。レビューの手順を整備し、繰り返し発生する作業を自動化する。
こうした作業をしている間、機能開発そのものは進まない。
その時間でコードを書いた方が、目先の進捗は確実に増える。
しかし、一度仕組みが出来上がれば、その後の作業すべてに効果が及ぶ。
例えば、毎回AIに説明していたルールを共通化すれば、次から説明する必要がなくなる。レビューの観点を整理しておけば、毎回ゼロから考えなくて済む。
一回あたりの節約は小さくても、何十回、何百回と繰り返せば、その差は大きい。
昔から「木を切る前に斧を研げ」と言われるが、まさにその話である。
なぜ現場では後回しになるのか
ところが、こうした環境整備は、忙しい現場ほど後回しにされる。
理由は簡単だ。
目の前の仕事を終わらせないと怒られるからである。
今週中に実装しなければならない機能があるのに、「今日はAIの開発環境を改善していました」と報告しても、なかなか理解されないだろう。
特に進捗が遅れているプロジェクトでは、そんなことをしている暇があったらコードを書け、と言われかねない。
結果として、非効率な作業を延々と繰り返すことになる。
忙しいから効率化できない。そして効率化しないから、いつまでも忙しい。
実に分かりやすい悪循環である。
本来はPMが時間を確保すべき
こうした状況を、現場のエンジニア個人の努力だけで解決するのは難しい。
だからこそ、PMやリーダーが最初から環境整備の時間を計画に組み込む必要がある。
開発環境の構築、AIの設定、共通ルールの整備、自動化の仕組み作り。
これらを「余裕があったらやる仕事」ではなく、正式な開発タスクとして扱う。
さらに、定期的に作業の進め方を見直す時間も必要だろう。
毎週少しでも、今の作業をもっと簡単にできないか、AIに任せられる部分はないかを検討する。
こうした改善は、個人の生産性だけでなく、チーム全体の開発速度に影響する。
もちろん、環境整備そのものが目的になってはいけない。使われない自動化ツールを作り込んでも意味はない。
重要なのは、繰り返し発生する作業を見極め、そこに先行投資することである。
進捗率には現れない仕事
従来のプロジェクト管理では、どうしても完成した機能や消化したチケットが評価されやすい。
しかし、AI時代には、同じ仕事を何度も速く処理できる仕組みを作った人間の価値が、以前にも増して大きくなっている。
一つの機能を完成させることと、今後のすべての機能開発を速くすること。
どちらが長期的に大きな成果を生むかは、考えるまでもない。
問題は、その効果がすぐには数字に現れないことだ。
だからこそ、PMには目先の進捗だけでなく、将来の生産性まで見据えた判断が求められる。
斧を研ぐ時間を惜しんで、切れない斧を振り回し続ける。
そんな現場は昔から存在した。
AIという電動チェーンソーが登場した今でも、相変わらず斧を振り回しながら「もっと速く切れ」と怒鳴っている現場があるとしたら、もはや道具の問題ではない。