パイロットがCAを兼任する飛行機には乗りたくない
最近、複数のAIエージェントを同時に動かして仕事をすることが増えた。
一つには調査をさせ、別の一つにはコードを書かせ、さらに別の一つにはレビューをさせる。
うまく回っているとき、人間は驚くほどやることがない。
画面上でカタカタと動くコンソールを眺め、ときどき進捗を確認するくらいだ。
問題は、何かが起きたときである。
一つがエラーを出し、別の一つが想定外の変更をする。作業同士がぶつかれば、それまで静かだった画面が突然騒がしくなる。
「エラーになりました」
「この場合どうしますか?」
「別の変更と競合しています」
全部まとめて人間のところへ飛んでくる。
各エージェントのログを読み、どこで前提がズレたのかを探し、何を残すか判断して修正指示を出す。
数分前までコーラを飲みながら画面を眺めていた人間の脳が、突然100%で回り始める。
この働き方、何かに似ている。
旅客機のパイロットである。
普段は暇。でも暇でなければ困る
現代の旅客機では、多くの作業が自動化されている。巡航中、パイロットがずっと操縦桿を握っているわけではない。
だからといって、
「じゃあパイロット、暇じゃん」
とはならない。
何か問題が起きれば、それまで自動で動いていた巨大なシステムを理解したうえで、人間が判断しなければならないからだ。
AIエージェントも同じだ。
平常時の負荷は低い。しかし複数のAIを並行して動かしていると、問題まで並行してやって来る。
しかも以前なら、自分でコードを書いていたので頭の中にコンテキストがあった。
AIの場合は違う。
トラブルが起きて初めて、
「お前、そこで何やった?」
となる。
そこからAが何を変更したのか、Bは何を前提にしているのか、Cのレビューは正しいのかを短時間で把握する。
AIが10人分働いてくれるなら、人間が10人分楽になるとは限らない。
10人分の問題が同時に自分のところへエスカレーションされる可能性もある。
そして必ず現れる「暇そうですね」
ここで、AIが会社に本格導入された未来を想像すると嫌な予感がする。
AIエージェントを何台も動かしている社員が、椅子に座って画面を眺めている。
そこへ管理職がやって来る。
「暇そうですね。余裕があるなら、この仕事もお願いします」
これは危ない。
パイロットに、
「自動操縦中は暇ですよね。CAの代わりに飲み物を配ってきてください」
と言っているようなものだ。
一人でAIを3つ見られる。まだ余裕がありそうだから5つ。まだ座っているから8つ。
こうして人間の稼働率を100%に近づけていく。
そして3つが同時に問題を起こした瞬間、全部止まる。
「何もしない時間」が仕事になる
AIによって通常時の作業量が減ったからといって、その空いた時間を別の仕事で全部埋めればいいわけではない。
その空白は、異常が起きたときに使う処理能力である。
サーバーでも道路でも、余力がなくなると急激に弱くなる。人間の頭も同じだ。
これからAIがさらに仕事をするようになれば、人間の仕事は「手を動かす」ことから、監視し、判断し、必要なときに介入することへ変わっていく。
厄介なのは、それが外から見ると非常に暇そうに見えることだ。
しかし人間がそこにいるのは、何かが起きた瞬間に判断するためである。
もし将来、
「AIに仕事させてる間、暇ですよね?」
と言われたら、こう答えればいい。
「はい。何か起きるまでは。それが一番いい状態です」
パイロットがCAも兼ねる便には私は乗りたくない。