「自分だけは逃げ切れる」――キオクシア急落で見えた、人間心理という最強の敵

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キオクシアの株価が急落し、ネットでは大騒ぎになっているらしい。

キオクシアはNAND型フラッシュメモリを主力とする半導体メーカーだ。AIブームによってデータセンター需要や半導体需要への期待が一気に高まり、その波に乗って株価も急騰した。

勢いは凄まじく、一時は時価総額でトヨタ自動車を抜き、日本企業トップになるほどだった。

しかし、そこで私は少し違和感を覚えていた。

もちろんAI市場は今後も成長するだろう。

しかし、半導体メーカーは業界構造で言えば”土台”を支える部品メーカーである。その企業価値が、日本を代表する完成品メーカーであるトヨタを大きく上回る状態が長く続く――そんなストーリーは、冷静に考えれば少し出来すぎているようにも思えた。

もちろん、その時に株を買っていた人たちも頭の片隅では「少し高すぎるかもしれない」と感じていたはずだ。

それでも相場が勢いづくと、人は不思議なほど冷静さを失う。

「確かに高い。でも、もう少しだけ上がるはず。」

そして最後には、こう考える。

「暴落する前に、自分だけはうまく売り抜けられる。」

この「自分だけは大丈夫」という根拠のない自信は、人間の標準装備なのかもしれない。

心理学では、これを**過信バイアス(Overconfidence Bias)**と呼ぶ。

人は、自分の判断力や能力を平均以上だと思い込みやすい。

運転技術もそう。

仕事の能力もそう。

そして投資も例外ではない。

全員が「自分は平均より上」だと思っているのだから、冷静に考えれば少しおかしな話である。


もっと面白いのは、その後だ。

相場が上がっている間は、

「俺の分析力がすごい。」

「才能がある。」

「見る目があった。」

と、自分を褒める。

ところが暴落した瞬間、

「会社が悪い。」

「機関投資家が操作した。」

「空売り勢が悪い。」

「市場がおかしい。」

と、一気に他人の責任になる。

ネットのまとめサイトを眺めていると、キオクシアに対する怨み節が山のように並んでいて、思わず苦笑してしまった。

勝てば自分のおかげ。

負ければ誰かのせい。

これもまた、人間の標準仕様らしい。


ちなみに私は株式投資をしているが、個別株には手を出さず、インデックス投資だけにしている。

余裕資金で積み立てて、基本的には放置。

爆発的に儲かることはないが、信用取引で人生ごと吹き飛ばすこともない。私にとっては「インフレで目減りしにくい貯金」くらいの感覚である。

ただ、今回の話は株だけの話ではない。

「自分はほかの人より少し賢い」

「自分なら状況を正しく判断できる」

「ほかの人は失敗しても、自分だけはうまくやれる」

こうした過信は、仕事の世界にも普通に存在する。

特にITエンジニアは、自分が賢いと思い込んでいる人が多い気がする。

難しい技術用語を知っている。複雑なシステムを理解できる。一般の人には分からない問題を解決できる。そういう仕事を長く続けていると、いつの間にか「自分は平均より頭がいい」という感覚が染みついてくる。

もちろん、本当に優秀な人もいる。

しかし、専門分野で多少詳しいことと、人間として判断力が優れていることは別の話だ。

技術には詳しくても、投資では簡単に熱狂するかもしれない。

コードは正確に読めても、人の感情はまるで読めないかもしれない。

自分の設計だけが正しいと思い込み、ほかの人の意見を聞かなくなることもある。

そして正直に言えば、私もつい「自分は平均よりは賢いだろう」と思ってしまうことがある。

おそらく、それこそが過信バイアスなのだろう。

人間の大半が自分を平均以上だと思っているなら、自分もその勘違いをしている可能性はかなり高い。

だから私は、「自分のインテリジェンスは、実は平均以下かもしれない」くらいに考えておくのが、ちょうどいいのではないかと思っている。

本当に平均以下だったとしても、現実を正しく認識できている。

平均以上だったとしても、少し慎重になるだけなので害はない。

少なくとも、「自分だけはうまく逃げ切れる」と信用取引に全財産を突っ込むよりは安全である。

もっとも、自分は謙虚な人間だと思い始めた瞬間、今度は「自分だけは過信バイアスを克服している」という新しい過信が始まる。

人間の脳は、なかなか逃げ道を塞がせてくれない。