「AIで日本は米中に勝てない」を受け入れた先にある、一つの勝機
「日本はAI開発で米中から1年半遅れている」
そんな記事が話題になっていた。理由は意思決定の遅さと資金力の差だという。
これは、かなり納得できる。
今のAI開発は、天才研究者が画期的なアルゴリズムを一本書けば逆転できる世界ではない。巨大なデータセンターを建て、半導体を確保し、電力を食わせ、優秀な研究者を世界中から集める。
要するに物量戦である。
米国では一企業が巨大な資金を動かし、中国も国家と企業が猛烈な速度で投資している。
ここで「日本も国産AIにもっと投資すれば追いつける」と言っても厳しい。相手も止まって待ってくれるわけではない。
もし十分な資金が提供されると仮定しても、今度は社内調整だ、関連省庁の認可だ、第三者委員会の審査だ、などを繰り返してスタートまで1年、その間に2世代ほど米中のモデルは進化してるだろう。
日本には資金的にも文化的にもAI開発は無理なのである。
だったら、まず認めてしまえばいい。
AIそのものを作る競争で、日本が米中に勝つのは難しい。
むしろAIがコモディティになるのを待つ
では、日本に勝ち目がないのか。
私は逆だと思う。
狙うべきは、AIそのものではなく、その次の段階である。
AIはいずれコモディティ化する。すでに数年前なら研究所レベルだったAIが、今では月額数千円で使える。
これがさらに進めば、AIはクラウドのような「あることが前提」の技術になっていく。
そこで勝負すればいい。
自動車も日本が発明したものではない。日本は完全な後発組だった。
しかし技術が成熟し、「自動車を発明する競争」から「どうすれば壊れにくく、安く、燃費よく大量に作れるか」という競争になると、日本企業は強かった。
発明者が、その技術を使った産業でも最後まで勝つとは限らない。
AIでも同じことはあり得る。
日本が狙うなら「AIを使い倒す側」
製造業、医療、物流、建設、小売。現場には、その業界や会社にしか分からないノウハウが大量にある。
「この機械は、この音がしたらそろそろ壊れる」
「マニュアルではこうだが、実際の現場ではこうする」
こういう知識は、巨大なAIモデルを作っただけでは手に入らない。
私は長くITの仕事をしているが、システム開発でも難しいのは技術そのものより、現場の事情をシステムに落とし込む部分だったりする。
AIも同じである。
世界最高性能のモデルを作れなくても、それを業務に組み込み、現場のデータと接続し、本当に使える道具に変えることはできる。
日本が狙うなら、ここだと思う。
フィジカルAI、つまりロボットとAIの組み合わせなども、もしかしたら日本に追い風になるかもしれない。
職人のスキル、ものづくりにおける暗黙知、体感的な部分では日本は世界トップレベルであると思う。これとAIが組み合わされば強い。
ただし、完全に離されてはいけない
もちろん「AI自体の研究をやめて、アメリカから最新モデルを買えばいい」という話ではない。
技術が分からなければ、使いこなすこともできない。
トップを取れなくても、何が起きているのか理解できる距離にはいる必要がある。
1周遅れ、せいぜい1.5周遅れくらいで走り続ける。
そして技術が成熟し、値段が下がった瞬間に、一気に実用化する。
基盤モデルを作る物量戦では勝てなくても、AIを製造、医療、物流、中小企業、家庭へ持ち込む競争なら話は別である。
世界一のAIを作る必要はない
「AIで日本は米中に勝てない」と聞くと、敗北宣言のように聞こえる。
しかし、
勝てない競争から降りることと、AI時代から降りることはまったく違う。
世界一のAIを作る必要はない。
世界一しつこくAIを現場にねじ込む国になればいい。
日本は昔から、海外から入ってきたものを改良し、原型が分からなくなるほど使い倒すことを得意としてきた。
AIでも、それくらいでちょうどいい。
世界最強のAIはアメリカが作ればいい。
こちらは、そのAIに残業してもらおう。