日曜の朝、将棋番組を見て気付いた。「AIに負けた世界」は案外悪くない
日曜日の朝、何気なくテレビをつけると将棋の番組をやっていた。
日本の日曜の朝にはなぜか囲碁と将棋の番組をやっている。
とはいえ私は将棋ファンというほどではない。
ルールは分かるが、プロの対局を追いかけるほど詳しくもない。
それでも、その日の特集が「AIによって変わった将棋」だったので、気付けば最後まで見入ってしまった。
見えてきたのは、「AIが人間を超えた後」の世界だった。
棋士の部屋は研究室になっていた
まず驚いたのは、棋士の研究風景である。
昔は研究会で人間同士が盤を囲み、議論しながら新しい戦法を探していた。
ところが今は違う。
自宅で、いつでも世界最強の相手と対局できる。
しかも相手は文句を言わない。
「さっきの局面に戻って。」
「もう一回試したい。」
そんなことも何度でもできる。
番組で映ったプロ棋士の部屋には、大きなモニターが何枚も並び、解析ソフトや評価値が画面いっぱいに表示されていた。
正直、普通のプログラマーのデスクよりずっとIT企業っぽい。
「将棋」というより、完全にデータ分析の現場だった。
AIは数百年分の常識を書き換えた
もっと面白かったのは戦法である。
将棋は何百年も研究されてきたゲームだ。
人間が考えられることは、もうほとんど研究し尽くされたと思われていた。
ところがAIは、その前提をあっさり壊した。
「そんな手は筋が悪い。」
長年そう言われてきた指し手を、
「いや、実は強い。」
と評価し始めたのである。
人間が数百年かけても見つけられなかった発想を、AIは平然と見つけてしまう。
改めて考えると、とんでもない話だ。
AIに負けたから終わったわけではない
十年ほど前、トップ棋士がAIに敗れた。
それ以降は将棋という競技においては、人間よりAIの方が強いという結論は出ている。
現在ではAI対AIの競技へと完全に移行している。
ある意味、この世界はとっくにシンギュラリティを経験しているのだ。
だからといって将棋界が終わったかというと、まったく逆だった。
人間同士の将棋人気は相変わらず高いまま。AIと人間で新しい関係性が生まれているのだ。
AIが新しい戦法を見つける。
人間がそこから学ぶ。
また新しい表現が生まれる。
AIはライバルではなく、最強の研究パートナーになった。
もちろん、副作用もあった。
数年前には、「対局中にトイレでAIと相談したのではないか」という疑惑まで起きた。
今では対局前に持ち物検査がされているという。
技術が変われば、ルールも変わる。
これもAI時代らしい話である。
AIに勝とうとしているのは、人間だけなのかもしれない
番組を見終わって、一番印象に残ったのはそこだった。
将棋界では、AIが最強なのは常識である。
だから誰もAIと勝負しようとは思わない。
どう使えば、自分がもっと強くなれるか。
みんな考えているのは、それだけだ。
ところが他の業界では、まだ「AIに勝てるか」「AIに仕事を奪われるか」という議論が続いている。
将棋界は、とっくの昔にその段階を通り過ぎていた。
人類はAIより賢いかどうかは分からない。
ただ一つ言えるのは、現実を受け入れるのは、将棋棋士の方がずっと早かった。