「不公平だからAI導入中止」――日本企業が衰退する理由を見た気がした
先日、知人の会社でClaudeの導入が見送られたという話の続報を聞いた。
理由は大きく2つあったらしい。
まず、コストの問題。全社員にアカウントを配ると費用がかかるため、効果が期待できる部署に限定して導入しようとした。ところが、「なぜあの部署だけなのか」という不公平感が生まれることを懸念し、結局導入を見送ったという。
もう一つは、現場からの抵抗である。
AI導入に否定的な部署が多かったらしい。知人の見立てでは、AIに仕事を奪われる、あるいは自分の社内での立場が危うくなるという恐れがあったのではないか、とのことだった。
話を聞いて、いかにも日本企業らしいと思った。
全員が得をしないなら、誰も得をしない方がいい
そもそも、部署によって必要なツールが違うのは当たり前である。
開発部門には高性能なPCが必要だろうし、営業部門には別のツールが必要だろう。それを「不公平だから全員に同じものを配れ」と言い始めたら、会社の設備投資などできなくなる。
AIも同じだ。まず効果が期待できる部署に導入し、成果を確認してから広げればいい。
ところが、誰かが得をすることへの不満を恐れて、全員が得をする可能性まで捨ててしまう。
実に見事な平等主義である。
さらに厄介なのが、AIによって自分の仕事や立場が脅かされるという恐怖だ。
新しい技術が導入されれば、不要になる仕事も出てくる。だからこそ、その技術を使って新しい価値を生み出す方向に進むべきなのだが、現在の仕事を守ることが最優先になれば、変化そのものが敵になる。
こうして、誰も責任を取らず、誰も損をせず、そして誰も前に進まない組織が完成する。
日本の経済が縮んでいく理由
最近、日本のGDPの世界順位が下がったというニュースをよく目にする。
名目GDPの順位には円安の影響も大きい。しかし、長期的な経済の停滞を考えると、今回のような組織文化も無関係ではないと思う。
新しい技術が登場したとき、まず「これで何ができるか」を考える会社と、「これで誰が困るか」を考える会社。
どちらが成長するかは、わざわざ経済学者に聞くまでもない。
かつての日本企業は、海外の技術を積極的に取り入れ、改良し、世界市場で戦ってきた。それがいつの間にか、社内の不公平感を恐れてAIツール一つ導入できない組織になってしまった。
もちろん、これは知人の会社の一例にすぎない。それでも、似たような話を日本のIT業界で何度も見聞きしてきた身としては、特別珍しい話にも思えない。
日本が成長しなくても、自分まで付き合う必要はない
では、こうした日本の組織文化をどう変えるべきなのか。
正直なところ、私はもう、そこにあまり関心がない。
大企業の意思決定や日本社会の体質を、個人が変えようとしても限界がある。ましてや、AI導入に反対する人たちを一人ずつ説得して回るほど暇でもない。
それより、自分がAIを使いこなし、生産性を上げ、その能力を評価してくれる相手を探す方がはるかに現実的だ。
今は個人でも、かつてなら企業が大金を投じなければ実現できなかったような開発ができる時代である。国内の会社が評価してくれないなら、海外に目を向ける選択肢もある。
国全体のGDPが伸びることと、自分の収入や生活が豊かになることは別問題だ。
日本経済が停滞しているからといって、自分の能力まで停滞させる必要はない。
むしろ、周囲が新しい技術を拒んでいるなら、それを使う人間にとっては競争相手が減ることになる。
知人の会社がClaudeの導入を見送ったと聞いて、最初はもったいないと思った。
しかし、考えてみれば、私のようなフリーランスにとっては悪い話ばかりでもない。
企業が社員にAIを使わせないでくれるのだから、個人がAIを使うだけで差がつく。
日本企業の衰退を嘆いていたが、どうやら私の競争力向上には、ずいぶん協力してくれているらしい。