LinkedInに届く「オフショア開発しませんか?」という営業を見て、時代が変わったと思った話
LinkedInを開くと、今でも海外の開発会社から営業メッセージが届くことがある。
「優秀なエンジニアを低コストで提供できます」
「開発費を○%削減できます」
昔なら珍しくない営業だった。
実際、2000年代から2010年代にかけては、オフショア開発はかなり合理的な選択肢だった。日本で100人雇うより、人件費の安い国で100人雇った方が安い。多くの会社が中国やベトナム、インドへ開発を委託していたのも当然だろう。
ただ、その営業メールを見るたびに思う。
この人たちは、まだ数年前の世界を相手に営業しているのではないか、と。
「コードを書く人」を増やす意味が薄れてきた
私はオフショア開発を否定したいわけではない。
海外にも優秀なエンジニアはたくさんいる。
変わったのは、人ではなく仕事の中身だ。
以前は、人を増やせばコードも増えた。
だから「安く書ける人」を集めることに意味があった。
しかし今は違う。
Claude CodeでもCodexでもCursorでもいい。
設計がある程度固まれば、かなりの量のコードを短時間で生成してくれる。
もちろんレビューは必要だし、人間の判断も欠かせない。
それでも、昔のように「人数を増やせば開発速度も上がる」という単純な世界ではなくなった。
AIを使うほど、コミュニケーションコストが気になる
実際にAIで開発していると、一つ面白いことに気付く。
AIでコードを書く時間は劇的に短くなった。しかし、その前段階はほとんど短くならない。
結局、お客さんは何を作りたいのか。
この例外はどう扱うのか。
本当にその仕様でいいのか。
AIと何度も対話しながら設計を修正し、「やっぱりこっちの方がいいな」と考え直す。この試行錯誤こそが、今の開発の中心になっている。
ここへオフショア開発を挟むと、どうしても伝言ゲームになる。
私がお客さんと話す。
仕様を書く。
海外チームへ送る。
向こうが解釈する。
プログラマが実装する。
成果物が返ってくる。
確認すると、「そういう意味じゃない」が始まる。
もちろん昔からあった話だ。
ただ、AIで実装が速くなった結果、この「待ち時間」だけが以前より目立つようになる。
自分の手元でAIと相談しながら設計や実装を詰めた方が、確実に早く終わる。
「オフショアでもAIを使えばいい」は少し違う
ここでよく出てくる反論がある。
「海外の開発会社でもAIを使えば解決するのでは?」
半分は正しい。
半分は違う。
AIが短縮してくれるのは、キーボードを叩く時間である。
業務知識は短縮されない。
設計経験も短縮されない。
お客さんとの認識合わせも短縮されない。
AIは設計者の能力を何倍にもする道具ではあるが、設計そのものを理解してくれるわけではない。
最近は「AIがエンジニアを置き換える」という話をよく聞く。
私にはそうは見えない。
むしろ設計できる人と、そうでない人との差が、以前より大きくなったように感じている。
安い人材より、設計できる人
もちろんオフショア開発がなくなるとは思わない。
運用保守もある。
大量のテストもある。
海外向けサービスを現地で開発する仕事もある。
そういう需要は今後も残るだろう。
ただ、「日本より人件費が安いから」という理由だけで海外へ開発を出す案件は、以前より減っていくだろう。
AIによって、一人の生産性が何倍にもなったからだ。
昔なら10人必要だった仕事を3人で終えられるなら、「足らない人員をどこの国で雇うか」という議論そのものが小さくなる。
営業メールを見て思ったこと
だからLinkedInでオフショア営業を見ると、不思議な気分になる。
「安く開発できます」
という言葉は、少し前なら十分な武器だった。
でも今、私が聞きたいのはそこではない。
「AIを前提に、どんな開発プロセスを持っていますか」
「設計はどう進めますか」
「AI時代に、お客さんとの距離をどう縮めますか」
そちらの方がずっと興味がある。
もしオフショア先が、コードの実装だけを請け負うつもりなら委託することはないだろう。
それなのに、今も「人数を増やせます」という営業を続けているのを見ると、少し切なくなる。
蒸気機関車が走り始めた頃に、「うちの馬車は昨日より速く走れます」と胸を張っていた御者も、きっとこんな気持ちで営業していたのかもしれない。