15万が3000に負けた――時代に乗った方が勝つ

深夜、なかなか眠れずにテレビをつけたら、時代劇をやっていた。

特に見るつもりもなかったのだが、途中から妙に面白くなって、そのまま見てしまった。

描かれていたのは19世紀後半、江戸時代末期の日本。長州藩という地方勢力と、250年以上にわたって日本を支配してきた徳川幕府が戦った「長州征討」のあたりである。

日本人なら学校で何度も習う話だ。

しかし改めて考えると、相当におかしい。

地方の一藩が、日本全国を支配していた徳川幕府と戦い、最終的に幕府のほうが崩壊しているのである。

現代のアメリカに無理やり置き換えるなら、テキサス州が連邦政府に反旗を翻し、米軍と戦い始めるようなものだ。

しかも最後にはワシントンの政府そのものが倒れる。

普通に考えれば勝てるわけがない。

では、なぜそんなことが起きたのか。

時代劇では「新しい時代を作る若者たち」と「古い幕府」という物語になりやすい。

しかし実際の勝敗を決めたのは、もっと身も蓋もない話だったのではないかと思う。

「命令できる」と「従ってもらえる」は違う

第二次長州征討で、幕府は全国の諸藩に出兵を命じ、長州を複数方向から攻撃した。

兵力については資料によって大きな差があるが、幕府側が長州を大幅に上回っていたことは確かだ。

本来なら、それで終わる話である。

ところが幕府には、兵士を集める力は残っていても、彼らを本気で戦わせる力がなくなっていた。

幕末の幕府はすでに求心力を失いつつあった。外国と不平等条約を結び、国内政治も混乱し、「幕府に従っていれば大丈夫」という250年続いた前提そのものが揺らいでいた。

幕府は諸藩に「長州を攻撃しろ」と命令できる。

しかし命令された側が、

「徳川幕府のために命を懸けよう」

と思っているとは限らない。

これは現代の巨大組織でも同じだ。

社員数が多いから強いとは限らない。部署がたくさんあるから実行力があるとも限らない。

組織図に載っている人数と、本当に動く人数は別物なのだ。

長州は負けたから変わった

一方の長州も、最初から強かったわけではない。

むしろ一度、徹底的に負けている。

外国艦隊との戦いで西洋の軍事力を思い知らされ、幕府にも一度は屈服した。

しかし、その敗北をきっかけに軍隊を変えた。

従来の武士だけに依存せず、身分にとらわれない部隊を作り、西洋式の兵器や戦術を積極的に取り入れた。

「武士とはこうあるべきだ」という形式より、どうすれば実際に勝てるのかを優先したのである。

つまり、長州が強かったというより、

負けたあとに自分たちのやり方を変えたことが強かった。

巨大組織ほど、これが難しい。

過去に成功した方法があり、伝統があり、制度があり、その制度によって偉くなった人たちがいる。

だから環境が変わっても、昨日までの方法を捨てられない。

小さな組織には資源がない代わりに、過去を捨てられる強さがある。

敵だった薩摩とも手を組んだ

さらに長州は孤立していたわけではない。

かつて敵対していた有力藩の薩摩と手を組んだ。

薩摩は幕府による長州攻撃に距離を置き、長州の武器調達にも関与した。

先ほどのアメリカの例を続けるなら、

テキサスが連邦政府と戦っている裏で、カリフォルニアが「俺も今のワシントンは気に入らない」と武器調達を手伝っているようなものだ。

こうなると景色が変わる。

表面上は「巨大な幕府 VS 小さな長州」でも、その巨大な幕府からは味方が離れ始め、反対側では昨日まで敵だった勢力が手を組んでいる。

幕府軍の巨大な兵力という数字は、すでに組織の実力を表していなかったのである。

一度負けると「幕府は強い」という前提まで壊れる

そして幕府が長州を簡単に倒せなかったことには、軍事的な敗北以上の意味があった。

それまで日本には、

「なんだかんだ言っても最後は幕府が勝つ」

という前提があった。

250年以上続く政府である。全国の大名を従えている。逆らえば潰される。

だから皆、従う。

ところが実際に戦ってみると、幕府は一地方勢力すら簡単には潰せなかった。

すると、

「あれ? 幕府って倒せるんじゃないか?」

となる。

強者は、強いから強者なのではない。

みんなが「あいつは強い」と信じているから強者でいられる部分がある。

その信用が壊れると、昨日まで味方だった人間まで態度を変え始める。

幕府は突然弱くなったのではない。

すでに弱くなっていたことが、一度の敗北によって全員に見えてしまったのである。

そこから流れは一気に変わり、最終的には260年以上続いた徳川幕府そのものが消えた。

時代に乗った方が勝つ

深夜に何となく見始めた時代劇だったが、一番印象に残ったのは長州の英雄たちではなかった。

むしろ徳川幕府のほうだった。

巨大な組織がある。圧倒的な資源がある。長い歴史も制度も人もいる。

昨日までそれで勝っていた。

だから今日も勝てると思っている。

ところが、その間に環境のほうが変わっている。

小さな相手は新しい武器を使い、新しい組織を作り、昨日まで敵だった相手とまで手を組んでいる。

それでも巨大組織は、昔のルールのまま戦おうとする。

長州が幕府より巨大だったわけではない。

長州が最初から強かったわけでもない。

時代の変化に合わせて自分たちを変えた側と、昨日までの強さを信じ続けた側が戦った。

そして勝ったのは、時代に乗った方だった。

結果は、歴史の教科書に書いてある。