AIが安くなったとき、「野良AI」が一気に増える――大手が触れない市場の行方
最近のAIを使っていると、ときどき思う。
ずいぶん優等生になったな、と。
OpenAI、Google、Anthropicのような大手企業が提供するAIには、さまざまな制限がある。
危険な行為、アダルト、著作権、セキュリティなど、企業として扱いにくい領域になると途端に慎重になる。
世界中にサービスを提供している以上、当然ではある。
しかし、ここに市場の歪みが生まれる。
大手が禁止することと、人間がやりたいことは必ずしも一致しない。
そして、その差には金が落ちる。
インターネットでも同じことが起きた
新しい技術は、立派な用途だけに使われるわけではない。
インターネットも、企業サイトや電子商取引だけで発展したわけではない。アダルト、海賊版、怪しい掲示板など、表では語りにくい需要も存在した。
人間は、新しい技術を渡されたからといって急に品行方正にはならない。
AIでも同じだろう。
大手AIが安全性を高めるほど、
「そんな制限はいらない」
という需要が外側に残る。
問題は、その需要を誰が拾うかである。
オープンウェイトモデルが状況を変える
そこで面白いのが、オープンウェイトのAIである。
モデルの重みが公開され、自分の環境で動かせるなら、大手のクラウドAIとは事情が違う。
中央のサービス提供者が毎回「その質問には答えられません」と止めてくれるわけではない。
私はこういうものを勝手に **「野良AI」**と呼んでいる。
ただし現在は、まだ参入障壁がある。
高性能なモデルを多数のユーザー向けに動かすには、それなりのGPU、電力、設備が必要になる。個人が気軽に始められるほど安くはない。
しかし、この壁はいずれ下がる。
誰でも「AI屋」になれる日
重要なのは、参入に必要な金額である。
量子化や蒸留、推論用チップなどが進歩すれば、必要な設備は安くなる。
かつてWebサーバーを持つこと自体が大仕事だった時代から、誰でも安価なレンタルサーバーでWebサイトを公開できる時代になった。
AIにも同じことが起きる。
数十万円から数百万円程度の設備で十分なサービスを立ち上げられるようになれば、中小企業や個人でも参入できる。
当然、こう考える人間も現れる。
「大手が禁止しているものを、うちは提供します」
ここから「野良AI」の市場が始まる。
怖いのは「Winny事件」の二の舞である
日本では2000年代、ファイル共有ソフトWinnyについて著作権侵害などに使われ、社会問題になった。
そして開発者自身が著作権法違反幇助の罪に問われ、一審では有罪、その後最高裁で無罪が確定した。
つまり最終的には無罪だった開発者が、逮捕され、長い刑事裁判を経験した。
これはエンジニアにとって重い。
新しい技術を作った。
誰かが悪用した。
そして開発者まで逮捕された。
最終的に無罪になるとしても、
「では安心して次の技術を作ろう」
とはならない。
野良AIでも、大きな事件が起きたときに同じ問題が出てくる。
「悪用した人間」を取り締まるのか。
それとも、
「こんなAIを作った人間にも責任がある」
と開発者まで追うのか。
後者になれば、野良AIそのものを禁止する必要すらない。
エンジニアが怖くて作らなくなるからだ。
逮捕されてから最高裁で無罪を勝ち取ればいい、などと考えて開発する人はいない。
ある意味、法律で禁止するより強力である。
「これを作ったら、自分も捕まるかもしれない」
そう思わせればいい。
AI犯罪を止めるためだったはずが、気がつけば日本のAI開発だけが萎縮していた。
そして数年後、海外製AIを高い金を払って使いながら、
「なぜ日本からAI企業が育たなかったのか」
と首をかしげる。
技術者を萎縮させたあとで「日本にも次のGAFAを」と言い出すところまでが、たぶん日本のAI戦略である。