「人型ロボットなんて意味がない」と笑っている間に、中国はもう走り始めている
中国で、人型ロボットの「運動会」が開かれた。
人型ロボットが走ったり、転んだり、競い合ったりする。映像だけを見るとなかなか面白い。
一方、日本のYouTubeなどを見ていると、これを冷ややかに見る意見もかなりある。
「人型にする意味がない」 「車輪のほうが効率がいい」 「工場なら産業用ロボットで十分」 「Pepperの失敗を忘れたのか」
言っていること自体は分かる。
実際、現在の工場でネジを締めるだけなら、人間のように二本足で歩く必要などない。固定されたロボットアームのほうが速く、安く、正確だ。
だから「今すぐ工場に入れるならどちらが合理的か」という質問なら、産業用ロボットが勝つ。
ただ、私はこの議論を聞いていると、少し嫌な既視感を覚える。
今ある技術の延長だけで、次の技術の価値を判断していないだろうか。
「日本は産業用ロボットが強いから大丈夫」という安心感
日本は今でも産業用ロボット大国である。
ファナック、安川電機、川崎重工など、世界で戦えるメーカーもある。
だから、
「中国が人型ロボットを走らせて遊んでいる間に、日本は工場で本当に役立つロボットを作って稼いでいる」
という見方もある。
気持ちは分かる。
だが、この種の「今の市場では日本が強いから大丈夫」は、過去にも何度も聞いた言葉である。
今の産業用ロボットで強いことと、次のロボット市場でも強いことは同じではない。
そもそも、なぜ人型なのか
人型ロボットへの典型的な批判は、
「人間の形なんて非効率だ」
というものだ。
これはロボット単体だけを見れば正しい。
荷物を運ぶだけなら車輪でいい。溶接だけならロボットアームでいい。階段がなければ二足歩行など必要ない。
しかし、視点をロボットから環境側へ移すと話が変わる。
私たちの社会そのものが、人型に作られているからだ。
階段の高さも、ドアノブの位置も、机の高さも、工具の大きさも、通路の幅も、人間の身体を前提に設計されている。
従来の自動化では、ロボットに合わせて環境を変える。
専用ラインを作る。柵を置く。レールを敷く。部品の位置を固定する。作業そのものをロボット向けに設計し直す。
人型ロボットが狙っているのは逆である。
環境をロボットに合わせるのではなく、ロボットを人間の環境に合わせる。
人間が昨日まで働いていた場所へ、そのまま入れる。人間が使っていた工具を使い、別の作業が必要になればそちらへ移る。
これが実現できるなら、ロボット単体の効率だけを比較して「車輪のほうが速い」と言っても意味が変わってくる。
中国の「運動会」を笑っていていいのか
今回の映像も、見方によっては単なるロボットのお祭りに見える。
だが、中国がやっているのは人型ロボットを大量に作り、実際に動かし、失敗させ、そのデータを集めることでもある。
転ぶ。うまく動かない。また直す。
それを大量に繰り返す。
技術開発とは本来そういうものだ。
「今は使えない」と「研究する意味がない」はまったく違う。
現在の完成度だけを見て笑っている間にも、向こうでは実機とデータと人材が蓄積されていく。
私はこちらのほうが気になる。
Pepperを持ち出すと、話が止まってしまう
そして日本で人型ロボットの話をすると、かなりの確率でPepperが登場する。
「日本も昔Pepperを作ったけど失敗しただろう」
確かにPepperは、期待されたほど広く定着しなかった。
しかし、Pepperと現在の人型ロボットを同じ箱に入れてしまうのは乱暴だ。
Pepperが登場したのは生成AI革命より前である。
現在起きているのは、単なるロボット工学の進歩ではない。
周囲を認識するAI、自然言語を理解するAI、行動を計画するAI、そして現実空間で身体を動かす制御技術が一つにつながり始めている。
これが「フィジカルAI」と呼ばれているものだ。
Pepperという一つの製品が商業的に苦戦したことと、人型ロボットという技術カテゴリーに将来性がないことはまったく別の話である。
初期の製品が失敗したから、その技術全体に未来がない。
そんな理屈なら、世の中の新技術の大半は途中で消えている。
答えは、産業用ロボットメーカー自身が出している
結局、人型ロボットに意味があるのか、フィジカルAIが本当に次の巨大市場になるのか。
YouTubeで評論家同士が議論していても答えは出ない。
もっと分かりやすい答えがある。
日本の産業用ロボットメーカー自身が、NVIDIAと組み始めている。
「日本には世界に誇る産業用ロボットがある。人型なんて非効率なものを追いかける必要はない」
そう言っているのは外野であって、その産業用ロボットを実際に作っている企業は、すでにフィジカルAIの世界へ動いている。
考えてみれば当然である。
彼らは産業用ロボットの強さも、人型の弱点も、現場で何が本当に役に立つのかも、YouTubeの評論家よりはるかによく知っている。
その企業が、従来型ロボットだけを磨いていれば十分だとは考えず、NVIDIAと組んで次のロボット技術へ投資している。
人型が最終的な勝者になるのか、車輪型になるのか、アーム型とのハイブリッドになるのかは、まだ分からない。
しかし少なくとも、
「産業用ロボットがあるからフィジカルAIなんて追わなくていい」
という話ではないことだけは分かる。
何しろ、その産業用ロボットメーカー自身がNVIDIAと提携して、フィジカルAIを追い始めている。
これが一番分かりやすい答えだと思う。