YouTubeを見ていると世界中が崩壊している――「他国の不幸」がこんなに気持ちいい理由

最近、YouTubeを見ていると世界中が大変なことになっている。

「イギリス経済、ついに崩壊」

「アメリカ、格差拡大でもう限界」

「韓国、少子化で国家存亡の危機」

「ドイツ経済、完全終了」

こんな動画が次から次へと出てくる。

一体、世界はどうなってしまったのか。

この調子なら来年あたり、人類は滅亡していてもおかしくない。

ところが不思議なことに、YouTubeを閉じて海外ニュースを普通に見ると、どの国も問題を抱えながら普通に存在している。

アメリカ人は会社へ行き、イギリス人はパブでビールを飲み、ドイツ企業は商売をしている。

世紀末感がかなり薄い。

では、なぜYouTubeの中だけ世界中が崩壊しているのだろう。

考えてみると、理由はそれほど難しくない。

私がそういう動画を見てるからである。

「日本は終わった」を聞き続けるのも疲れる

ここ十数年、日本では散々こんな話を聞かされてきた。

経済は衰退し、賃金は上がらず、GDP順位は落ち、少子高齢化も止まらない。

もちろん実際に存在する問題である。

しかし毎日「日本はもう終わりです」「海外に比べて日本人は貧しくなりました」と聞かされ続ければ、さすがに嫌になる。

そこで現れるのが、

「いやいや、海外も相当ひどいぞ」

というコンテンツである。

アメリカではホームレスが増えている。

イギリスでは生活が苦しい。

韓国の少子化は日本より深刻だ。

これを見ると、少し安心する。

「ああ、日本だけじゃないんだ」

さらに強烈な動画になると、

「むしろ日本のほうがマシなのでは?」

という気分にまでしてくれる。

非常によく効く。

日本衰退論を毎日飲まされて疲れた人にとって、海外崩壊動画は精神的な鎮痛剤なのである。

人間は他人の不幸を見ると、安心する

あまり上品な話ではないが、人間にはこういうところがある。

自分の給料が上がらなくても、

「隣の会社はもっと給料が低い」

と聞けば少し安心する。

冷静に考えれば何も改善していない。

自分の給料は1円も増えていない。

それでも比較対象が下がれば、自分の位置が上がったような気になる。

国も同じである。

「日本は成長していない」

と言われるとつらい。

しかし、

「イギリスもヤバい」

「韓国はもっとヤバい」

と並べられると、

「なんだ、日本は結構頑張っているじゃないか」

という気分になる。

日本が上がったのではない。他国を下げただけである。

そしてYouTubeは、その弱点を容赦なく学習する

そこへYouTubeのアルゴリズムが入ってくる。

一度、

「ドイツ経済崩壊の真実」

みたいな動画をクリックする。

次の日には、

「イギリスが取り返しのつかないことに」

が出てくる。

それを見る。

今度は、

「アメリカ人が日本を羨む本当の理由」

が出てくる。

見事な流れである。

アルゴリズムは思想を持っているわけではない。

「この人は、外国が困っている動画を見ると長時間滞在する」

と学習しただけだ。

すると翌日から、世界中を不幸にしてくれる。

アメリカ、中国、韓国、ヨーロッパ。次々と崩壊する。

気がつけば、自分のYouTubeトップページだけ第三次世界大戦後みたいになっている。

しかし、それは世界の姿というより、自分のクリック履歴を映した鏡である。

「移民でヨーロッパ崩壊」も非常に売りやすい

最近なら移民問題も強い。日本も外国人問題が目立ってきてるからだ。

「移民でフランスが崩壊」

「イギリスの街が変わり果てた」

「ドイツが移民政策で大失敗」

こういうタイトルは非常にクリックしやすい。

もちろん欧州各国で移民をめぐる問題は実際に起きている。

治安、住宅、社会保障、文化摩擦など、現実の問題だからこそ動画の材料として強い。

しかし、一本の動画で国全体を説明しようとすれば、最も刺激的な場所を撮るのが一番手っ取り早い。

治安の悪い地区へ行く。

移民と住民が衝突している映像を使う。

そして、

「これが現在のフランスです」

とやる。

嘘をつかなくても作れる。

本当の映像だけを使って、極端に偏った世界を作ることはできる。

ここが厄介なのである。

アメリカは格差がひどい。でも世界最強の企業も生まれる

国というのは面倒なもので、良い部分と悪い部分が同時に存在する。

アメリカには巨大な格差がある。

医療費やホームレスの問題も深刻である。その一方で、世界を代表するテクノロジー企業が次々と生まれ、巨大な富も作っている。

日本は経済成長が弱い。

賃金は長期間伸び悩み、少子高齢化も深刻である。その一方で、治安は良く、公共交通は動き、社会もかなり安定している。

どちらか一面だけ取り出して、

「アメリカ終了」

「日本終了」

とするからおかしくなる。

しかし、

「アメリカには強い産業がありますが、格差など複数の構造的問題も存在し、今後の政策対応が注目されます」

では誰もクリックしてくれない。

サムネイルに文字も入りきらない。

だから、

「アメリカ崩壊」

になる。

非常に効率がいい。

一番怖いのは、自分が見たい情報だけで世界が完成すること

結局、YouTubeの海外崩壊動画を見ていて一番面白いのは、海外事情そのものではない。

自分が何を見たがっているのかが分かることだ。

日本の将来に不安を感じている。日本だけが衰退していると思いたくない。できれば「実は日本のほうがマシだった」という結論が欲しい。

そこで動画を一本クリックする。

するとアルゴリズムが、

「承知しました」

とばかりに、翌日から世界中を崩壊させてくれる。

これほど親切なサービスもない。

ただ残念ながら、ドイツが崩壊しても私の給料は上がらない。他国の不幸を100本見ても、自分たちの問題は一つも消えないのである。

だから最近、「○○国、ついに崩壊」というサムネイルを見ると、内容より先にこう考えるようになった。

「なるほど。今日はこの国を見て安心しろ、ということか」

そしてクリックしない。

……と言いたいところだが、たまにクリックする。

人間、精神的鎮痛剤が必要な日もある。