映画『ちいかわ』の「島編」が重すぎる。そして公式の「煮魚コラボ」という狂気
『ちいかわ』という作品は、見た目だけなら完全に子ども向けである。
丸くて小さくて、かわいいキャラクターが出てきて、ご飯を食べたり、草むしりをしたり、友達と遊んだりする。
ところが原作を読んでいる人なら知っている。
この世界、たまに洒落にならないくらい重い。
そのちいかわの映画『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が大ヒットだという。
私は原作で内容を知っていたので、映画化の話を聞いたときから、
「これ、映画館で子どもが見て大丈夫なのか?」
とは思っていた。
かわいいキャラクターを見に行ったはずなのに、出てくる話はかなりビターである。
「悪いやつを倒して終わり」ではない
島編が厄介なのは、単純な勧善懲悪になっていないところだ。
ざっくり書くと、人魚の肉を食べた島民の話である。
日本には人魚の肉を食べると不老不死になる伝説があり、それに則ったものだろう。
人魚の肉を食べさせて、大切な人を救おうとした者がいる。
子どもの人魚を食べられ、復讐しようとする母がいる。
そして事情を知らないちいかわたちは、人魚の「討伐」という形でその争いに巻き込まれていく。
誰か一人を悪者にして、
「こいつを倒せば全部解決」
とはならない。
それぞれが自分にとって大切なものを守ろうとした結果、取り返しのつかないことが起きている。
だから後味が悪い。
「結局、誰が悪かったのか」と聞かれても、簡単には答えられない。
強いて言えば、こんな話を書いた作者が悪い。
そして本当に「煮魚」を売っている
さらに私が驚いたのが、映画に合わせたセブン‐イレブンとのコラボである。
カツカレー、貝汁、島ラーメンなど、作中の食べ物をイメージした商品がいろいろ発売された。
その中に、
「セブンプレミアム 映画ちいかわ 赤魚の煮付」
島編を知らなければ、
「ちいかわと魚料理のコラボか。かわいいね」
で終わる。
知っている人間からすると話が違う。
人魚の子どもは、煮魚にして食べられたのだ。
よりによって、そこを商品化するのか。
映画館で重い話を見せられた後、その余韻を抱えたままコンビニへ行く。
そこには、かわいい『ちいかわ』のパッケージに入った赤魚の煮付が並んでいる。
ブラックジョークとして完成度が高すぎる。
映画とのコラボ食品なのに、映画を見た後の方が食欲が落ちそうなのもすごい。
日本の子ども向け作品は、たまに容赦がない
ただ、考えてみれば、こういう作品は『ちいかわ』だけではない。
日本の子ども向け作品には、普段は明るく楽しいのに、突然かなりビターな話が入ってくることがある。
死や別れが出てくる。
善悪では割り切れない。
頑張ったからといって全員が救われるわけでもない。
昔話まで遡れば、さらに容赦がない。
グリム童話の原話などもそうだが、昔の子ども向けの物語には、現代の感覚ではかなり残酷なものが普通にある。
子ども向けの物語だからといって、砂糖だけで作る必要はないのだろう。
怖い話を見て怖がる。
悲しい話を見て悲しむ。
「結局、誰が悪かったんだろう」と考える。
そういう割り切れなさまで含めて物語である。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』も、かわいいキャラクターで包んではいるが、中身はかなり苦い。
そして、その映画を見た帰りには、公式コラボの煮魚まで買える。
ここまで徹底されると、もう感心するしかない。
子ども向けだからといって、何でも甘口にする必要はない。
甘い話はディズニーだけで十分だ。
日本の子どもたちは、たまには『ちいかわ』を見ながら人生の苦さを覚え、その帰りに煮魚でも食べればいい。