「暗黒時代」は本当に暗黒だったのか?——あとから見たら暗黒に見える気がしてるだけ
学校での歴史の授業を思い出すと、長い間ずいぶん雑な扱いを受けてた時代がある。
代表的なのが、ヨーロッパの中世と日本の江戸時代だろう。
中世といえば、教会に支配されて科学が停滞した「暗黒時代」。
江戸時代といえば、鎖国によって世界から取り残された「遅れた時代」。
そして、その後にルネサンスや明治維新が起こり、一気に近代化した。
しかし、よく考えると妙な話である。
何百年も本当に停滞していた社会が、ある日突然覚醒して世界の先頭を走り始めるものなのだろうか。
実際の歴史は、そんなに単純ではない。
中世がなければ、ルネサンスもなかった
ヨーロッパ中世を単純な「暗黒時代」と見る考え方は、現在ではかなり修正されている。
中世には大学が生まれ、古代ギリシャの知識がイスラム世界などを経由して再び西ヨーロッパへ流れ込み、哲学や論理学、医学などの研究が積み重ねられた。
農業や機械技術も進歩した。
つまりルネサンスや、その後の科学革命は突然発生したわけではない。
中世の長い蓄積の上で爆発した。
「中世は暗黒、ルネサンスになって突然みんな賢くなりました」では、むしろその後の急成長を説明できない。
江戸時代も、250年間寝ていたわけではない
江戸時代も同じである。
「鎖国して世界から取り残されていた日本に黒船がやってきて、慌てて近代化した」
という説明は分かりやすい。
しかし、それだけでは明治以降の日本の異常な近代化速度を説明できない。
江戸時代には寺子屋や藩校があり、出版文化が発達し、商業や物流も全国規模で動いていた。完全に外国との交流を断っていたわけでもなく、蘭学などを通じて西洋の知識も入っていた。
そこへ明治維新によって西洋の制度や技術が一気に入ってきた。
だから吸収できた。
黒船が日本人を突然賢くしたわけではない。
すでに走れる社会ができていたところへ、強力なエンジンを載せたのである。
大きな変化ほど、突然起きたように見える
歴史では、どうしても派手な出来事に名前が付く。
ルネサンス。
科学革命。
産業革命。
明治維新。
だから、その瞬間に突然世界が変わったように見える。
しかし実際には、その前の何十年、何百年という地味な蓄積がある。
表面上は停滞しているように見えても、教育が広がり、知識が蓄積され、技術が改善され、社会の仕組みが少しずつ変わっている。
そして条件が揃ったところで、一気に表へ出る。
「あれがなかったら発展できた」のではない。
「あれがあったから発展できた」
歴史には案外こういう例が多い。
そういえば、AIも同じだった
せっかくなので、もっと身近な例を考えてみる。
AIである。
少し前までAIは、長い間「いつまでたっても実用にならない技術」の代表格だった。
AIブームが来る。
期待される。
思ったほど使えない。
「やっぱりAIは駄目だった」と言われる。
そしてAI冬の時代が来る。
これを何度も繰り返してきた。
ところがChatGPTが登場した頃から、世間の印象は突然変わった。
文章を書く。画像を認識する。プログラムを書く。調査する。人間と普通に会話する。
数年で急激にAIが進化したように見える。
だが、もちろん数年前に突然すべてが生まれたわけではない。
ニューラルネットワークも機械学習も、その前から研究され続けていた。計算能力は上がり続け、インターネットには膨大なデータが蓄積され、Transformerのような重要な技術も登場していた。
そして、あるところで条件が揃った。
それまで「いつになったら使えるんだ」と言われていた技術が、突然「社会を変える」と言われ始めた。
中世からルネサンスへ。
江戸から明治へ。
そしてAI冬の時代から生成AIへ。
規模も中身もまったく違うが、後から見ると大変化は突然起きたように見える。
しかし、その直前まで何も起きていなかったわけではない。
世の中が突然変わったように見えたとき、その少し前を調べると面白い。
たいてい誰かが、誰にも注目されないところで何十年も地味に仕込んでいる。