アメリカは一体、誰と戦っているのか――トランプと習近平の「接近」を見て思うこと
最近のニュースを見ていて、妙な感覚になった。
トランプ大統領と習近平国家主席が会談し、米中関係の安定や協力を強調している。
あれだけ関税だ、AIだ、半導体だ、台湾だと激しく争っていた二つの国が、ずいぶん仲良さそうに見える。
もちろん、米中対立が終わったわけではない。貿易や関税について交渉しながら、AI、重要鉱物、台湾など根本的な対立は残っている。要するに「仲直り」というより、殴り合いながら商談もしている状態だ。
それでも私は、最近のアメリカ外交を見ていて一つの疑問が消えない。
アメリカは一体、誰と戦っているのだろう。
敵には笑顔、味方には請求書
私たちが昔イメージしていたアメリカは分かりやすかった。
自由主義・民主主義陣営の中心にアメリカがいて、日本や欧州などの同盟国と協力し、中国やロシアのような競争相手と対峙する。
少なくとも建前はそうだった。
ところがトランプ流の外交を見ていると、その境界線がかなり曖昧になっている。
習近平とは首脳同士で直接会い、条件が合えば取引する。一方、日本や欧州などの同盟国にも、関税や防衛負担をめぐって厳しい要求を突きつける。
アメリカが日本や欧州との同盟を捨てたわけではない。日米同盟もNATOも現在まで維持されている。
それでも光景としては奇妙である。
敵には笑顔でディールし、味方には請求書を突きつける。
これまでの「価値観を共有する国同士の連帯」とは、かなり違う世界に見える。
「民主主義陣営」という発想そのものが古くなったのか
そこで少し怖い想像をしてしまう。
トランプにとって重要なのは、「民主主義国家か」「権威主義国家か」ではなく、単純にアメリカに何を提供できる相手なのかではないか。
そう考えると、最近の行動には妙に筋が通る。
中国は最大級の競争相手だが、巨大市場を持ち、重要鉱物の供給網でも強い影響力を持ち、軍事力も核兵器も持っている。
無視できない。
だから習近平とは直接話す。
逆に日本やカナダ・欧州は同盟国だからこそ、「もっと防衛費を出せ」「もっとアメリカ製品を買え」と要求できる。
そこには友情も敵意もあまり関係ない。
あるのは取引だけである。
これは「トランプが民主主義を否定している」とまで言えば飛躍だろう。
しかし少なくとも、民主主義国家同士だから特別に連帯するという従来の西側外交より、大国同士が直接条件を提示して取引する世界観を重視しているようには見える。
それでも日本は「アメリカについていく」
日本は安全保障をアメリカに大きく依存している。
経済面でもアメリカは重要な相手であり、中国もまた切ることのできない巨大市場である。
つまり日本には、「アメリカと喧嘩して独自路線を行く」というカードも、「中国側へ行く」というカードも現実には取りにくい。
日米同盟を維持しながら、中国とも経済関係を続ける。
結局、この狭い道を歩くしかない。
これは善悪の話ではない。
日本がアメリカや中国と同じ外交カードを持てないのは、国力を考えれば当然である。
ただ、米中の首脳が笑顔で握手している映像を見ると、どうしても妙な気分になる。
昨日まで「中国の脅威に日米で対抗しよう」と言っていたはずなのに、そのアメリカ自身は必要になれば中国と直接取引する。
そして取引が終われば、また日本に戻ってきて「同盟は重要だ」と言う。
おそらく、それが大国外交なのだ。
友情ではなく、その瞬間の利益で動く。
小国の利益は無視である。
本当に怖いのは、日本が何を学ぶか
ただ、私が本当に怖いと思うのは、米中が接近することそのものではない。
こうした大国外交を見せつけられた日本が、別の方向へ振れていくことである。
結局、国際政治では大国は自分の利益を優先する。昨日の敵とも必要なら握手し、同盟国にも平然と負担を要求する。約束や価値観より、最後にものを言うのは経済力と軍事力だ――そんな現実を何度も見せられれば、日本国内から別の声が出てくるのは自然だ。
「アメリカは本当に日本を守るのか」
「中国やロシアが核を持ち、アメリカまで信用できないなら、日本も核を持つべきではないか」
これまでなら極論として片付けられていた議論が、少しずつ現実味を帯びてくる。
大国とは、昔から横暴なものである。
問題は、その横暴さを目の前で見せつけられた側が何を学ぶかだ。
「だから小国を含めた国際協調体制が必要だ」と考えるのか。
それとも、「結局、自分の国は自分で守るしかない」と考えるのか。
後者へ進めば、核武装という選択肢まで議論されるようになる。そして、それは当然アメリカが望む日本の姿とも限らない。
そう考えると、少し皮肉な未来も見えてくる。
現時点の日本の視点からは、アメリカと対立するイランはおかしな国に見える。
しかし、大国を信用できず、自国の安全保障を自分で確保しようとし、その結果としてアメリカと激しく衝突する。
アメリカと戦っているイランの姿は、案外、日本の遠い将来の姿なのかもしれない。